ROKUGO BASE Magazine

【起業家インタビュー】AIエージェントと3Dプリンターでつくりだす「価値ある時間」/株式会社トコシエ・渡辺 龍徳さん
「大田区(ココ)でつながり、ともに進もう」というキャッチコピーを掲げ、歩みを進めてきた六郷BASE。大田区にあるさまざまな資源と起業家がつながることで相乗効果を生み、事業が前に進んでいく——。そのような事例がどんどん増えてきています。
そこで、今回より六郷BASEの入居者へのインタビュー連載をスタート!
初回は、2022年2月から六郷BASEに入居している株式会社トコシエの渡辺 龍徳さんです。AIエージェントとベルトコンベア型3Dプリンターを製造・販売するトコシエがどのように立ち上がったのか、生まれてきたつながりとここまでの道のりを伺いました。
将来を考えたときに浮かんだ“起業”と父の姿
——渡辺さんは、いつ頃から起業家を目指していましたか?
父が自営業だったので、小さい頃からサラリーマンではない自由な働き方を間近で見ていました。父の職場に連れて行かれたこともあり、幼少期からなんとなく起業をイメージしていたかもしれません。ただ、自分が実際に「経営してみたい」と思うようになったのは、25歳のときです。
大学に進学せず高卒でコールセンターのアルバイトとして働くなかで、ふと「このまま、ずっとここで働くのかな」と思って。正社員になる手前で、一度将来を考えたいと思って仕事を辞めたんです。そのときに具体的に起業することを考え始めました。
——大学附属の高校だったそうですが、進学はしなかったんですね。
やりたいことが決まっていない状態で進学して、専門性が限られるのを不自由に感じたんです。ちゃんと学びたいことができたら、改めて大学に行けばいいという気持ちで浪人しました。しかし、勉強するわけでもなくダラダラ過ごしてしまって……そんな僕を見かねた親に「働いたら」と言われ、アルバイトを始めました。
あの怠惰な期間は1ヶ月くらいでしたが、僕のなかでは「仕事をさせないと自分はああなってしまう」と気付くきっかけになりましたね。基本的に、怠け者なんだと思います(笑)

僕自身がずっとベジタリアンだったこともあり、最初は地元・熊本でベジタリアン向けの飲食店を構想していました。でも、以前働いていたコールセンターの元上司から「東京で新部署ができるから、来てくれないか」と連絡があって。いずれは東京にも行きたいと考えていたし、いい機会だと思ってまずは東京に出てきたんです。
「やらない理由」を消すためにMBA取得へ
——東京に出て、MBA取得のために大学院に進学されています。起業に向けて、まさに“学びたいことができた”ということでしょうか?
そうですね。
せっかく火がついた起業の意志が新たな環境で消えてしまわないように、会社に勤めながら社会人大学院に通いました。あと、「起業しない理由を消したかった」というのも大きいですね。当時は「経験がないから」「わからないことが多いから」と、 起業しない理由をいくつも自分で作っていたので、それを打ち消すために大学院に行ったんです。
——「起業したい」と思っていた渡辺さんでも、“起業しない理由”を探してしまうものだったんですね。
わからないものに飛び込む怖さは、やっぱりありました。
あと、自分は1人だとまたサボるんじゃないかと思っていたのも大学院に行った理由ですね。高卒で何もしなかった怠惰な日々が思い返されて……。「背水の陣」のような状況を作り、仲間を見つけることを目標にしていました。実際、起業へのモチベーションを高めながら、経営に関する知識を身につけて、多様な他業種の経営者や幹部候補と交流する機会があったのは、本当によかったと思います。

——そして卒業した2019年に、合同会社BirthT(現・トコシエ)を起業されています。
当時はとにかく「座学で学んだことを実学に活かしてみたい」という気持ちが強くて、BirthTと並行していくつかの事業を展開していました。スタートアップ企業でカスタマーサクセス部門を作ったりコンサルティング会社を作ったり、いろいろなことを試していましたね。
アイデアを形にするスピードを上げていく

——トコシエが創業時から携わっている「ベルトコンベア型3Dプリンター」の開発と販売は、どのようにスタートしたのでしょうか?
MBA取得後、千葉工業大学の学生だった現メンバーと出会ったことがきっかけです。
大学でロボット開発をしていた彼らの課題として、圧倒的な3Dプリンター不足がありました。学生の数に対してプリンターが少なく順番待ちが生じている状況だったわけですが、特に作ったものをプリンターから“取り外す”という作業でかなりのタイムロスが起きていました。
限られた時間で研究や論文執筆を進めなくてはいけない学生たちにとって、3Dプリンターの製造プロセスがボトルネックになるのはストレスです。海外ではベルトコンベア型の3Dプリンターがすでにあり、彼らにはそれを作る技術もありました。彼らの持つ問題意識と、僕の起業のノウハウが出会ったことで、すぐに会社を設立することが決まったんです。

——ベルトコンベア型の3Dプリンターは、日本にはなかったのですね。
そうですね。海外でも、レベルアップを目指して開発し続けているところは少ないです。僕らは「アイデアを形にするスピードを向上させたい」という目的に向けて、精度向上や自動化などの付加価値をつけています。
——渡辺さんが「アイデアを形にするスピードを向上させたい」と考えるようになったのは、なぜですか?
コンサルタントとして働いていた頃に出会った大手企業の「完成度よりスピードを重視して事業を進める」というやり方に影響を受けました。僕自身、細かい部分にこだわりすぎて完成が遅くなる本末転倒な状況に悔しい思いをしたこともあります。だからこそ、「拙速は巧遅に勝る」という教訓を常に思い出しながら、前に進むことを意識しています。

ゆかりのなかった大田区とつながって
——六郷BASEに入居されたのは、2022年2月からですね。
2021年にクラウドファンディングをして、部品や在庫の置き場、組み立てる場所が必要になりました。同業者の方とお話をするなかで紹介してもらったのが六郷BASEです。
それまでは関わりがなかった大田区に拠点を持ち、ものづくり業界における大田区のネームバリューの大きさを感じましたね。区の支援や制度も充実していて、製造業に対する補助金や助成金も多く助かっています。町工場との距離が物理的にも心理的にも近く、連携しやすいのもありがたいところです。

——3Dプリンターの部品は、大田区の町工場と一緒に作っていると伺いました。どのような経緯で町工場とつながったのでしょうか?
フレームなどを作ってくれている京浜島の試作会社のムソー工業株式会社さんとの出会いは、弊社の社員が地域の飲み会で出会ったのがきっかけでした。スタートアップと大田区の企業がつながる「ユナイト助成事業」でもマッチングさせていただき、それまで海外に発注していた部品の製造をお願いし始めました。
設計図を出した際にそのまま受け取るのではなく、「何のためにこういう形にしてるのか」「こうした方がいいんじゃないか」など積極的なやりとりをしていただけて、僕らに足りない部分を補ってもらう感覚がありました。ベンチャーフレンドリーな地元の企業と出会えたのは幸運だったと思います。
また、3Dプリンターのノズルやディスペンサーを作ってもらっている大森のオグラ宝石精機工業株式会社さんとの出会いは、六郷BASEのスタッフの方からのご紹介でしたね。
——六郷BASEとしても、ご縁がつながって嬉しいです。
六郷BASEは、スタッフのみなさんが本当にプロアクティブですよね。僕らスタートアップはとにかくやることが多くて、どうしても情報取得まで手が回らないことが多いんです。スタッフさんがイベントや補助金の情報を持ってきてくれたり、スタートアップ支援のアクセラレーションプログラムを準備してくれたり、僕らができないことを拡張的にしてくれて本当に助かっています。
まだ一社で展示会に出るほどの規模ではないときに、「六郷BASE」として合同で展示会に出展させていただけたのもありがたかったですね。僕は家が遠いので立地が残念ですが(笑)、そういう不可抗力以外では本当にいいところしか浮かばないほど良くしていただいていると思います。

人生で「何をしてきたか」が価値になっていくなら
——トコシエさんの、今後の展望についても聞かせてください。
3Dプリンターの製造・販売のほか、現在は「預かったデータから物を作ってお届けする」というサービスも行なっています。今後は、東京大学と共同で研究開発を進めている「造形プロフェッショナルAI」を活用して、データ作成から納品までを一括で請け負うサービスをスタートさせる予定です。
お客様と話していると、3Dデータを用意することのハードルが高いと感じているので、「こんな感じで」と希望を伝えるだけで3Dデータが完成したらいいなと。そのままプリンターで造形できる一気通貫のサービスになれば、アイデアを形にできる方々が増えるのではと思っています。
——それはすごいですね!海外進出なども考えていますか?
そうですね。
造形プロフェッショナルAIの提供できる価値は、海外でも十分に通用すると思っています。まずは市場規模の大きいアメリカに最先端の事例として持っていきたいですね。対話で指示したものが自動でデータ化・プリントされる一連のプロダクトを、2026年1月の北米での展示会で発表できたらと考えています。
——トコシエさんは、なぜそこまで「全自動」にこだわるのでしょうか?
ベルトコンベア型3Dプリンターを作るときから変わらず、人間が必要な作業以外は機械でできたらという思いがあります。プリンターから物を取り外すなどの単純な“作業”は人間がやらなくてもいい時代がきていると思っていて。 「人生で何をしてきたか」が人の価値になっていくなら、その価値を作るための時間を単純作業に費やしてほしくない。もちろん単純作業に面白さを感じる人はいいんですが、そうでない人たちに自動化の選択肢を提供したいんだと思います。

——渡辺さんご自身は、自動化で生まれた時間で何をしたいと考えていますか?
僕はサボりたい(笑)……という気持ちもありますが、ずっと勉強していきたいなと思っています。
いつかまた大学に行ってMBAを学び直したいとも考えていて、トコシエで経験した成功や失敗をまた座学で考えてみたいんです。その学びをもとに、また形にしていくのもいいんじゃないかな、と今は考えています。
——「怠け者」というイメージはまったくなかった渡辺さんの、新たな側面を知ることができた楽しいインタビューでした。渡辺さん、ありがとうございました!今後のトコシエさんの活躍にも期待しています!

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