六郷BASE

大田区南六郷創業支援施設

ROKUGO BASE Magazine

【起業家インタビュー】「この技術をなくしたくない」から、起業で宇宙に挑む/株式会社cosmobloom・福永 桃子さん

REPORT
記事URLをコピーする

「大田区(ココ)でつながり、ともに進もう」というキャッチコピーを掲げ、歩みを進めてきた六郷BASE。大田区にあるさまざまな資源と六郷BASEに入居する起業家が、つながることで相乗効果を生み、事業が前に進んでいく——。そのような事例をご紹介していくのが、六郷BASEの入居者へのインタビュー連載です。

今回は、オリジナルの解析システムを使った宇宙構造物の設計や開発を展開する、株式会社cosmobloomの福永桃子さんにお話を伺いました。「起業とは?」という状態だった研究室のメンバーから、現在では国内外からの依頼が絶えない注目の宇宙ベンチャーへ。2023年3月の入居からの2年半を振り返りました。

宇宙での動きを検証するオリジナルのシステム

——まず始めに、cosmobloomの事業について教えていただきたいのですが……。

ウェブサイトを見ただけではパッとわかりづらいですよね(笑)。まず最初に、私たちが扱っているのは、薄い膜や布のようなものを小さく折りたたんで宇宙空間で広げることができる「ゴッサマー構造」というものです。その構造を使えば、宇宙で構造物を建てるときに、かさばるパネルなどではなく薄いシートのようなもので済み、資材の運搬に大きく余裕が出るんです。

——薄いテントのようなものを宇宙に送って、向こうで広げて組み立てるイメージですね。

そうです。ただ、宇宙空間は地上とは空気抵抗や重力を含めた多くの条件が違いますから、実際に宇宙空間でちゃんと開くのか、組み立てられるのか、そういったことがテストしづらいんですね。私たちが開発・活用しているのは、それをシュミレーションできるシステム「NEDA(Nonlinear Elasto-Dynamic Analysis)」です。

——どういう方々がお客さんになるのでしょう?

主には「宇宙で構造物を作りたい」という方々に協力することが多いですね。宇宙に送りたいものを、どのように作れば成功するのか。NEDAを使って解析し、実際の構造物の設計や開発なども手がけます。

——宇宙構造物というのは、どういうものを想定していますか?

代表的なもので言えば、太陽電池発電パネルやアンテナです。月面上の居住スペースも、大きな意味では宇宙構造物ですね。専門的なものになると、宇宙空間での星の光を防ぐ遮光装置「スターシェード」、宇宙ゴミの消失を早める「デオービット装置」など、さまざま。過去に「NEDA」が評価されたのは、JAXAが打ち上げた小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS(イカロス)」の検証をしたときです。

——思っていたよりも幅広いものに活用されていて、驚きました。

それが私たちの特徴かもしれません。専門分野に特化してエンジンや人工衛星を開発する宇宙スタートアップが多いですが、私たちは「ゴッサマー構造」というベースを持ちながら、用途は多岐に渡ります。

——「薄い膜を小さく折りたたんで、宇宙で広げる」という構造が、本当にさまざまな物に活かされているんですね。

まだ宇宙に物を送ること自体が簡単ではないなか、精度の高い検証ができる「NEDA」は、失敗の確率を下げることに寄与できるものです。また、ロケットや人工衛星にはどんどん小型の物が増えているので、少しでも軽く小さい資材を乗せたいという需要も感じています。

相性がよかった「なんでなんで星人」の研究者気質

——福永さんは、昔から宇宙に興味があったのですか?

実は、そうでもないんです。ただ、小さい頃から「なんでなんで星人」だったらしくて。母からは「『なんで?』に対してちゃんと説明すれば納得してくれたから子育てが楽だった」と聞いています。

——ちゃんと話が通じる子どもだったんですね(笑)

小学生からは病院で自分で病状を説明させられたりもしていたので、自分の感情や状況の言語化は得意でした。祖父が買い与えてくれた科学雑誌『Newton』を読んで、哲学や宇宙などに惹かれたのも、ずっと頭のなかに「なんで?」があったからなのかもしれません。

——実際に宇宙について勉強し始めたのは大学に進学してからとのことですが、そのときの恩師が、現在はcosmobloomの技術顧問である宮崎康行さんなんですよね。

はい、友人の付き添いで参加したオープンキャンパスで先生との出会いをきっかけに、日本大学理工学部航空宇宙工学科に進みました。1年生の頃から宮崎先生の研究室に出入りして、「NEDA」の開発や、人工衛星の打ち上げプロジェクトに参加していました。

——修士過程まで6年間。研究にのめり込んでいったのは、なぜだったんでしょう?

ひとつは、先輩方も当たり前のように6年間研究を続けていたので、私もなんの疑問も持たずに修士課程に進みました。あとは、宮崎先生とすごく気が合ったというのも大きいです。先生も突き詰めて研究してきた方なので、「なんでこうなのか」「どうしてこれをやらないのか」としつこく追求していく私のような学生と相性がよかったのかなと思います。

——“研究者気質”が合ったんですね。博士過程も視野に入れていたとのことですが、起業へと方向転換したのはなぜだったんでしょうか?

働きながら博士課程に進むつもりで準備していましたが、同世代の子たちが次々と会社を立ち上げる姿に刺激を受けました。また、学生時代からずっと「仕事をお願いしたい」と周りから言われていたので、法人化したほうがいいだろうと考え、仲間とともに起業することにしました。

大田区で見つけた、思わぬ連携先

——cosmobloomさんは起業前に、六郷BASEに入居しています。起業家として一歩を踏み出す際に、六郷BASEを選んだ理由はありますか?

まずは、登記ができる入居施設を探していたこと。最初は自己資金でのスタートだったため、他の施設に比べて価格が良心的だったのも決め手でした。また、私たちは設計や開発に特化し、製造は外注する「ファブレス」という形を取ると最初から決めていたので、ものづくりに精通しているエリアで探していたという理由もあります。

——大田区に“ものづくりのまち”という印象があったんですね。

私自身が大田区で育ったわけではないのですが、曽祖父が大田区で工場を経営していたり、祖父母がこの辺りに勤めていたり、縁はあるんです。会社員時代に大田区の工場と連携して仕事をしていた経験もあり、「ものづくりをするなら大田区だろう」とピンポイントに絞って登記場所を探しました。

——起業して最初の2年半を六郷BASEで過ごして、受けた支援のなかで印象的だったものはありますか?

入居して1年目に、六郷BASEとして大田区の展示会に出展させてもらいました。「どんな出会いがあるかわからないから」と参加したのですが、まさにその展示会で一緒に事業を進める企業に出会いました。資金が限られるなかでは自社のみで展示会に出ることはできなかったと思うので、そういった出会いを作ってもらえたのは大きいですね。

——具体的には、どういう連携を?

桂川精螺製作所さんという精密金属部品メーカーなのですが、最初は宇宙ゴミ対策のデオービット装置のシートを折りたたむ作業をしていただくところから始まりました。
実はシートを折りたたむのはずっと手作業で行なっていて、これまでは自分たちで夜な夜な作業することが多かったんです。ずっと自分たちで畳む作業を続けるのは難しいと感じていると話をしたら、桂川精螺さんが「ぜひやりたい」と言ってくださって……。

——精密金属部品メーカーなのに、そういった作業でご一緒しているとは驚きました!

桂川精螺さんは、町工場の継続や拡大を考えたら新しいことに挑戦する必要もあるという考え方で、もともと他の宇宙関連会社にも実験場として場所を提供するなどの協力をしてきたようでした。実際にお願いしてみると、サランラップよりも薄い巨大なフィルムを「こうすれば、きれいに折りたためるのでは」という工夫は、町工場の方々ならではの視点があって、とても助かっています。

それがきっかけで、金属の部品もお願いするようになりました。図面を一緒に見ながら、足りない部分を指摘してもらったりして、本当にありがたい関係ですね。今では、毎日のように桂川精螺さんに“出社”しています(笑)

紆余曲折を経て、研究者マインドでやっていく

——起業してから2年半、六郷BASEの入居期限ももうすぐですね。今、振り返ってどのように感じていますか?

本当にいろいろなことがありましたね。宇宙系のスタートアップは売上が立つまでの道のりが長く、投資家から資金提供を受けるのも一苦労です。私たちも継続していくために、事業形態を模索した時期もありました。海外の事業会社に安く買い叩かれそうになったり、株式の運用や資金調達の方法もわからなかったり、手探り状態でした。

——福永さんは、事業で迷ったときは誰かに相談するタイプですか?

「やってみる」が9割、本当にまずいぞと思ったら「聞く」が1割ですね。自分で研究を進めていたときから、他人のやってきたことを参考にするのはあまり好きじゃないんです。自分たちの正解がわからなくなってしまうから、まずは自分たちで考えてみたいと思っています。

——cosmobloomは起業されてから着実に資金調達や実績を重ね、The 7th edition of Women in Tech® Global Awardsでの受賞や、B Dash Campでの優勝などの結果につながっていると感じます。研究室時代には「いずれこの技術は消えてしまうかもしれない」と危機感があったと伺いましたが、今はどのように考えていますか?

正直、まだまだ消える可能性はあると思っています。私だけでは宮崎先生の研究を継げるとは思えなかったからこそ、組織として長く残すために起業しました。宇宙分野ではアメリカや中国に遅れを取っている技術もたくさんあるなかで、私たちが扱う「ゴッサマー構造」は日本が先陣を切って走っている分野です。この貴重な技術を、私たちが足を止めなければ残せるのではという気持ちで、いまだに走り続けています。

——福永さんは、どうしてそこまでこの技術を残したいと思うんでしょう?

会社を立ち上げた以上は、みなさんの生活に役立つような成果を出して社会に貢献したい、という思いは強くあります。現在取り組んでいる通信アンテナの開発などは、まさに人々の通信環境に大きく寄与できるものです。一方で、正直なところ、1割程度はたぶん“研究者としてのエゴ”なんです。

——“研究者としてのエゴ”?

最初は「誰かのため」に始めたのではなくて、やっぱり自分の「なんでこうなるの?」「これができたらおもしろい!」という好奇心からなんですよね、研究者って。先生のもとで学んだことが、たまたま実社会のなかで役立ちそうなものだったから、私たちがそれを社会実装していこう、と。研究者と起業家という2つの役割で補い合いながら歩んでいけたら、ひとりでは見られない世界が見られると思っています。

——なるほど。cosmobloomのすばらしい技術が、今後どのように展開されていくのか、私たちも楽しみです。福永さん、ありがとうございました!


入居者大募集!六郷BASEで事業を成長させよう
大田区南六郷創業支援施設 六郷BASEでは、スタートアップ企業のオフィス、コワーキングスペースへの入居を募集しています。
◎24時間365日利用可
◎オフィス 月42,000円(税込)
◎コワーキングスペース 月8,000円(税込)
◎会議室無料
◎羽田空港、品川駅へのアクセス抜群
◎定期面談あり
見学ツアーも開催中です。