ROKUGO BASE Magazine

【起業家インタビュー】価値観の共有でつくる持続可能な世界/fabula株式会社・町田 紘太さん
「大田区(ココ)でつながり、ともに進もう」というキャッチコピーを掲げ、歩みを進めてきた六郷BASE。大田区にあるさまざまな資源と六郷BASEに入居する起業家が、つながることで相乗効果を生み、事業が前に進んでいく——。そのような事例をご紹介していくのが、六郷BASEの入居者へのインタビュー連載です。
今回は2022年9月から入居している、fabula株式会社の町田 紘太さんにインタビュー。「ゴミから感動をつくる」という理念を掲げ、⾷品廃棄物から新素材を生み出すfabulaのストーリーを伺いました。
原点にあるのは“どう表現するか”ということ
——最初に、fabulaの事業である「食品廃棄物から生み出される新素材」について、教えていただけますか?
規格外の野菜や加⼯時に出る端材などの⾷品廃棄物を乾燥させ、粉末状にし、江ノ島の“たこせん”のように熱圧縮することで生み出される食品100%の素材です。扱う素材や加工具合によってコンクリートよりも曲げ強度が出るものや、香りを楽しめるものも作り出すことができます。
——今までは棄てられていたもので新しい製品を生み出すことができる上、最終的には土に還せるのはすごいですよね。町田さんのサステナビリティへの関心は、小学校3年生から3年間を過ごしたオランダでの経験が大きいと伺いました。
価値観が形成される大事な時期をオランダで過ごしたのは、たしかに自分の原点となる部分です。ただ、サステナビリティに関して何か大きな出来事があったというよりは、あちらでの主体的な授業の仕方がとても記憶に残っています。とにかく「自分で考えて、表現する」というのが教育の骨格でした。
——「やり方を習って、できるようになる」という日本のスタイルとはかなり違いますね。
そうなんですよね。もちろん地球温暖化などの社会課題についても学びましたが、全体をとおして「この社会に対して、あなたは何ができるだろうか」という問いが多く、そこに自分なりの表現を見出していくような授業。表現の方法には複数の選択肢が用意されていたり、かなり自由で楽しかったですね。

——帰国してからは日本の学校に通い、東京大学で「社会基盤」を学ばれています。これはどのような学問なのでしょうか?
社会基盤は「まちづくり」の文脈も含みますが、建築や都市と違って対象物がないんです。河や橋だけではなく、スマートフォンなどのインフラも社会基盤のひとつとされるので、その規模の大きさに夢があるなあと思って。英語では“Civil engineering(市民のためのエンジニアリング)”と呼ばれていて、その名の通り「市民社会に対しての工学的な回答」を考え続けます。
——オランダでの教育に通ずるものがありますね。
かなりヨーロッパ的な概念なので、それはあるかもしれませんね。これも、僕の中に染み付いている考え方のひとつだと思います。
幼馴染と目指す、「ゴミにも価値がある」と自然に思える世界
——大学で新素材を研究されていた町田さんが卒業後に起業するタイミングで、小学校からの幼馴染である松田さんと大石さんが参加しています。もともとみなさんは、どのような間柄だったのですか?
シンプルに幼馴染です。松田とは小学2年生のときに入ったサッカーチームで出会い、「毎週木曜日は遊ぼう」と決めて遊んでいました。大石とは家が近かったのと、中学生のときは一緒に学級委員をしていたと思います。高校からはバラバラでしたが、お互いの文化祭を行き来したり、大人になっても定期的に遊ぶ仲でしたね。
——まさか一緒に起業するとは。
小学3年生の時に一家でオランダに行ったあと、実はそのままロンドンに行く話もあったんです。もしそうなっていたら地元の中学校には進学していないし、ふたりとも疎遠になっていたかもしれません。不思議な縁だなとは思いますね。
——友達同士で起業してよかったことはありますか?
僕らの場合は、最初の信頼関係を作るステップをすっ飛ばして事業の話ができたことですね。コンセプトノートを作って、fabulaとしてのミッション・ビジョン・バリューをまとめたのが起業して最初の仕事でした。3人の興味範囲や経歴を束ねる一本の軸を作れたのは、よかったと思います。

——それが「ゴミから感動をつくる」という今の理念につながっているんですね。
「ゴミ」という言葉をいい感じに置き換えずに使いたいという思いは最初からありました。人々が生きていればゴミが出るのは止められないので、そこから価値をつくることも大切にしたかった部分です。そうすれば「ゴミをどうにかしなきゃ」と思わなくても、結果的にゴミが減っていきますから。
——サステナビリティは「未来のためにこうしなきゃ」という文脈で取り入れられるものが多いなかで、fabulaは「いいなと思って使ったら、実はサステナブルだった」という世界を目指しているのかなと感じました。
そうですね。僕はずっと「どうすれば人々が無理のない形で社会的な活動ができるか」という問いを持っているんです。学生時代は、さまざまな障害のある方へインクルージョンを推進する工夫を考え、活動をおこなっていました。起業してスタートアップという立場で同じ問いを考えたとき、やはりみんなが自然と欲しくなるような価値あるものを作るしかないなと思ったのはありますね。
地元密着の地域だからこそ、二人三脚で
——fabulaが六郷BASEに入られた経緯も、教えてください。
最初に地元の友達が大田区産業振興協会の方を紹介してくれたのが、きっかけでした。「六郷BASEという場所ができたんですよ」とご紹介いただいて。大田区の公的な施設ということで、ものづくり系の僕らには合っているんじゃないかと入居しました。
——実際に入居されて3年ほどですが、いかがですか?
他の入居者さんも含めて、地域密着な感じがいいですよね。大田区は海苔の養殖が盛んなので、海苔屋さんから海苔の端材を素材として受け取ってゴルフティーを作ったこともありました。大田区の方々はとてもサポーティブな印象ですね。産業振興協会の方が、地元の協力工場さんとつなげてくださったこともあります。

——地元の工場とも連携しているのですね。
僕らの事業にはいろいろな工程があるので、全国各地の協力工場さんに成型などをお願いしています。大田区は金属加工など後加工の技術を持つ町工場が多く、求めていた成型技術はなかなか見つからなかったのですが、産業振興協会の方が町工場に一軒ずつ電話で問い合わせてくださって……。地域の町工場はホームページなどもないようなところがほとんどなので、ネットワークのある地域の方々がつなげてくださるのはとてもありがたいです。
——さまざまな工場と連携する事業だからこそ、地域密着な環境が合っているのかなと感じました。
もともと僕らのスタンスは、外注先として「お願いします」と投げるのではなく、「一緒にやりましょう」というもの。一緒にストーリーを作っていく人たちだと思っているので、単純な縦関係のサプライチェーンにしたくないんです。対等な立場で、二人三脚で一緒に歩んでくださる地元の方々とのつながりは大切にしています。
同じ価値観を持つ仲間と協業してストーリーを作りたい
——fabulaは自社でオフィスも持っていらっしゃると思うのですが、六郷BASEをどのように活用していますか?
イベントに参加したり、定期的な面談で事業の整理をさせてもらったりしています。また、試作室にあるレーザー刻印機をかなり活用していて、100枚単位で商品にロゴを彫ることも多いですね。機械を置いている施設は他にもありますが、作ったものを販売できるところは少ないのでとても助かっています。

——ほかの入居者の方々との交流などはありますか?
入居されているBUCKLE COFFEEさんからコーヒーの残渣をいただいて商品を作ったり、生産設備の設計をおこなうワンエフテック株式会社さんに、工場の機械について相談したり。六郷BASEはスタートアップだけでなく、地域のスモールビジネスをされている方も多いので、地元ならではの話が多く出るのも可能性を感じます。
——素材や商品でコラボレーションしやすいfabulaは、今後も六郷BASEでの出会いでなにかが生まれていくのではと楽しみです。
そうですね。実はこのインタビューのあとも、最近入居されたデザインチームのみなさんとお話する機会をいただいているんです。ずっとお会いしてみたかった方々で、六郷BASEに入居したと聞いて、ぜひお話ししたいとお願いしました。

——最後に、町田さんがこれから取り組んでいきたいことを教えてください。
僕らがなによりも大事にしているのは、この新素材を「文化にしていく」こと。文化と呼べるほど当たり前の存在になったら、あえてサステナビリティを叫ばずとも本当の意味で持続可能な世界が成り立つと思います。
その上で、文化をつくるには横のつながりも大事。どうすれば「サステナビリティを文化にしようチーム」みたいなものが作れるんだろうなと、すごく考えていますね。「ゴミから感動をつくる」を一緒に実現していくために協業できる人が増えていったらいいなって。ラテン語で「物語」を意味する“fabula”の名前のとおり、背景にあるストーリーや価値観を一緒に伝えていける仲間がさまざまな業界にできたら嬉しいです。
——今後も仲間を増やしながらストーリーを紡いでいくfabulaのご活躍を楽しみにしています!町田さん、ありがとうございました!


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