ROKUGO BASE Magazine
【起業家インタビュー】町工場がものづくりに集中するために、それ以外をすべて引き受ける。/株式会社DrumRole・松本 隆太郎さん
「大田区(ココ)でつながり、ともに進もう」というキャッチコピーを掲げ、歩みを進めてきた六郷BASE。大田区にあるさまざまな資源と六郷BASEに入居する起業家が、つながることで相乗効果を生み、事業が前に進んでいく——。そのような事例をご紹介していくのが、六郷BASEの入居者へのインタビュー連載です。
今回は、町工場向けクラウド型生産管理システムを開発する、株式会社DrumRoleの松本隆太郎さんにインタビュー。受発注管理から品質・工程管理まで、町工場にとって必要な管理をすべてスマホひとつで。町工場に喜ばれるシンプルな製品にたどり着くまでを伺いました。
起業のタネは、実家の町工場にあった
——DrumRoleを立ち上げる前、松本さんはエンジニア、パートナーの牛尾さんは営業企画としてそれぞれ会社勤めをされています。起業までの経緯を伺えますか?
牛尾とは大学時代からの友人で、それぞれ大手企業に就職はしましたが「起業したい」という思いは一緒でした。それで、週末起業という形でいろいろなアイデアを出しながら、事業を模索していたんです。でも、なかなか「これだ!」というものが見つからなくて、思いついたものを試してもうまくいかない時期がありました。
——「起業したい」という思いが先にあったんですね。どのように今の「町工場向けクラウド型生産管理システム」という事業のアイデアが生まれたんでしょうか?
何かに特化した事業に絞らないといけないというのは、僕らの共通認識としてありました。大きな転機になったのは、長野県にある僕の実家に行ったことですね。

——ご実家に?
僕の実家は、祖父が立ち上げた町工場で、小さい頃はたまに連れて行ってもらっていました。大人になってからは離れていたのですが、何か起業のタネになるものがあるかもしれないと、帰省ついでに久しぶりに工場を訪れたんです。
そのときに、いろいろなものがアナログであることに衝撃を受けたんですよね。当時、僕は「スピード感を持って社会の役に立てる」というモチベーションでIT企業で働いていたので、環境のギャップがより大きくて。IT業界ではペーパーレスや効率化が当たり前の環境だったので、「なんでこうなっているんだろう?」と疑問に思うことばかりでしたね。
——例えば、どのようなところですか?
大きなところで言えば、いろいろなものが紙や手書きで管理されていてデータ化できていないとか。お客さんとのやりとりも印刷して壁に張っていて驚きました。もっと効率よく生産できるようになれば売上も上がるんじゃないかな、と。
ただ、他の町工場も同じ状況なのかがわからなかったので、2、30社ほど問い合わせや見学をさせていただきました。すると、やはり同じような状態で……。日本を支える製造業の働き方を改革できれば、大きなインパクトが残せるんじゃないかとDrumRoleを立ち上げました。
現場で働いてみてわかった“本当に必要なもの”
——2022年の11月に起業されて、生産管理システムをリリースされたのが2024年です。2年ほどの準備期間は、どのような動きをしていましたか?
実家が町工場とはいえ僕自身は製造業で働いたこともないですし、それは牛尾も同じ。外から見ただけではわからない現状を町工場の方々にヒアリングしていたのですが、本当に表層の部分しか聞けないなと感じていたんです。「なぜ今の形になっているのか」「現場の人にとって、何が使いやすいのか」、そういうことを自分たちも経験しなくてはいけないと思うようになりました。
——それで、“修行”されたんですね。
はい。僕が品川の樹脂加工会社、牛尾が大田区にある金属加工会社・極東精機製作所さんのもとで、半年間働かせていただきました。お話を伺うなかで、先方から「業界に飛び込んでみたら?」というアドバイスをいただいたのがきっかけで、本当にありがたいお話でした。

——実際に町工場で働いてみて、どのような発見がありましたか?
「想像と違った!」みたいなことも、たくさんありましたね。例えば、僕は実家でメールや図面を印刷したものが壁に張ってあるのを見て「紙よりデータで見れたほうがいいのでは?」と思っていたんです。でも、実際に町工場で働いてみると、圧倒的に紙のほうが使いやすくて……。そういった現場の感覚が肌でわかったのは、大きかったですね。
——修行を経て作り上げられた生産管理システム「DrumRole」の特徴も教えてください。
町工場の「これがほしかった!」というものを搭載した、スマホだけで生産管理ができるシステムです。受発注管理はもちろん、工程の組み立てや進捗管理、不良報告などもスマホで入力でき、紙やエクセルを使わずに管理や分析が可能です。
——「生産管理システムを導入したものの、なかなか使いこなせない」ことも多いと思うので、シンプルで使いやすいのは嬉しいですね。
複雑な設定や準備が必要なものではないので、導入しやすいと思います。僕らのメインターゲットである30人以下の町工場は、人数が増えて管理システムは必要でありながらも、システムの専任がいない規模です。その需要に、DrumRoleがマッチしているのかなと思います。

——お客さんから、特に喜ばれているのはどのような部分でしょうか?
みなさんが一番気に入ってくださるのは、品質管理の部分。不良が起きたとき、これまでは紙で報告書を記入してファイリングするスタイルが一般的でした。ただ、そうすると見返して分析や再利用することが難しいんです。DrumRoleでは、不良が起こったその場でスマホで撮影と記録をおこない、次回同じことが起きたときの注意点などをAIがサマリーして教えてくれます。今までは“起こしっぱなし”だった不良を、会社の資産として活用する仕組みが、喜んでいただけています。
——それはすごいですね!
品質管理は、売上を生むわけではないけれど絶対にやらなくてはいけない防波堤のような役割です。そこをいかに効率化させるかが課題だと、実際に町工場で働くなかで感じたことが活きていると思います。

横のつながりが強い大田区の良さ
——修行先だった極東精機製作所さんは、今でもDrumRoleのサービスを利用していますよね。
牛尾が修行中によい関係を築いてくれたことが大きいと思いますし、サービス自体も気に入ってくださって、リリースしてからも本当にお世話になっています。大田区の展示会で一緒になると、僕らを紹介して回ってくださったり、「業績が好調だ」とSNSに投稿するときにDrumRoleに触れてくださったり。愛のある、兄貴のような存在です。
——とてもいい関係ですね。ほかにも大田区でのつながりは増えているのですか?
極東精機製作所さんからのご紹介で、大田区の町工場のデジタル化や業務改善のサポートを行う事業に参加したり、品川区の修行先に誘っていただいた異業種交流会で大田区の企業と接点ができたり。つながりは増え続けていますね。
——ご紹介で、どんどん輪が広がっている印象ですね。
大田区は企業同士の距離がとても近いと感じるので、その影響もあるかもしれませんね。みなさんが知り合いで、仕事を紹介したり、困ったときに助け合ったり。「この加工ってどこでできますか?」みたいな相談をすると、絶対に誰か知っているんです。気軽に工場に顔を出して日常的に相談できる関係性も、大田区ならではの強みだと感じています。

——六郷BASEに入居されたのも、極東精機製作所さんからのご紹介でしたよね。
そうですね。大田区の展示会に出たときに紹介していただいて、存在を知りました。僕らのサービスは町工場さんとのやりとりがメインなので、都内で町工場が一番多い大田区に拠点を置くことはメリットが大きいと感じて、入居を決めました。
——入居されて2年半ほどですが、六郷BASEの印象はどうでしょうか?
地元企業などさまざまな人を交えて、頻繁にイベントを企画してくれるのがありがたいです。以前、一緒に登壇させていただいた町工場の方と仲良くなって、飲みに行ったりもしました。
町工場が集中してものづくりができる環境に
——最後に、今後の展望を教えてください。
今はとにかく目の前のお客様と向き合って、求められていることに真摯に対応していくことに尽きるかなと思っています。今年は資金調達もできたので開発と改善を進めてカバーできる範囲を広げて、お客様に満足していただけるサービスにしていきたいですね。
——導入事例などを見ていると、こまやかなフォローアップをされていらっしゃることが伝わってきます。
お客様からの要望や困り事に答えていくことで、自分たちのできることも広がっていくと思います。より多くの町工場にとって使いやすいサービスにしたいんです。
僕らもソフトウェアとはいえ、自分たちのことを“ものづくり企業”だと思っているんですね。何かを作るってすごく楽しくおもしろいことですが、それ以外の面倒だったり大変だったりすることも多い。僕らは、町工場のみなさんがものづくりに集中できるように、他の面倒ごとを引き受けることや、働きやすい環境づくりをやっていきたいと思います。
——今、町工場自体が減っている現状のなか、助かる方々が多いと思います。
日本の製造業のほとんどは中小企業で、そのなかでも75%以上が30人以下の町工場だと言われています。その方々がより働きやすく、より生産性を上げていくことができれば、今は縮小している日本の生産業全体が盛り返していくとも思っています。
——日本を支える産業を支えるシステムですね。これからもご活躍を楽しみにしています!ありがとうございました!


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