ROKUGO BASE Magazine
【起業家インタビュー】スタートアップ×町工場 信頼の先で、医療業界の“当たり前”を変える/アットドウス株式会社・中村 秀剛さん
「大田区(ココ)でつながり、ともに進もう」というキャッチコピーを掲げ、歩みを進めてきた六郷BASE。大田区にあるさまざまな資源と六郷BASEに入居する起業家が、つながることで相乗効果を生み、事業が前に進んでいく——。そのような事例をご紹介していくのが、六郷BASEの入居者へのインタビュー連載です。
今回お話を伺ったのは、アットドウス株式会社の中村 秀剛さん。金型業界やIT業界、監査法人、企業支援などの経歴を持つ中村さんが取り組んでいるのは、新たな投薬装置「atDose Core(アットドウス・コア)」の開発です。2025年の春に六郷BASEを卒業し、一緒にものづくりをしていた有限会社安久工機が運営する「ヤスラボ(ヤスヒサコーキイノベーションラボラトリ)」に入居。今回は、安久工機の代表である田中宙さんにも一緒にお話を伺いました。
“超微量”の薬を、“患部に直接”とどける装置
——まず始めに、開発されている「atDose Core」について、教えていただけますか?
中村:「電気浸透ポンプ」という非常に力の強いポンプを利用し、患部に直接、少ない容量を持続的に投与できる装置です。1日かけてピンポン玉をいっぱいにするくらいのスピード感ですね。例えば、30分間ずっと継続して薬を投与し続けるような、人間の手では難しいことが可能になります。
——アットドウスでは、その「電気浸透ポンプ」自体も開発しているんですよね。
中村:もともと19世紀には発見されていた技術でしたが、医療機器分野で実用化はされていませんでした。私たちはその技術を活用して、使用する薬剤の粘度や量に合わせてデザインできる投薬装置を作っています。
——継続的に微量の薬を投与できることのメリットは何ですか?
中村:特に重要なのが、“患部に直接”投与できるという点です。濃縮された薬を細胞一つ一つに投与するイメージ。例えば、現在のがん治療は点滴での全身投与が一般的ですが、「atDose Core」を使えば、がん細胞がある部分だけに抗がん剤をとどめることができ、副作用の軽減が見込まれます。

——抗がん剤による治療には、副作用は付き物だと思っていたので衝撃です。
中村:「抗がん剤はそういうものだから」と思っている人が多いと思いますし、今までそれを変えようとする動きもありませんでした。特に医療業界は、既存の形を変えるのにさまざまな承認や合意が必要になるので、なかなか踏み込んで変えようとする人がいなかったんだと思います。でも、私はテクノロジーを使えば既存の常識も変えることができると思っていますし、「副作用が起こるのはしょうがない」という諦めもなくしたいんです。
これまでのキャリアは、このためだったんだと思った
——副作用が減ることで、介護する家族の負担も減るとウェブサイトには書かれています。中村さんご自身も、ご家族が闘病されていたことがあるそうですね。
中村:義理の父が胃がんと肺がんになった経験が、私の中に大きく残っています。がんになったのは胃と肺なので、声帯は関係ないはずなのに薬の副作用で徐々に声が出なくなっていきました。また、副作用による全身の痛みや吐き気などで、精神的にも落ち込んでいって……。もともと明るくておしゃべりが好きな人だったのに、コミュニケーションが取りづらくなっていくのを目の当たりにしたんです。
——ただでさえ闘病は苦しいことなのに、治療の過程でそのようになってしまうのはつらいですね。
中村:そうなんです。義父の治療や入院に合わせて、義理の母や妻、私の実家にも相談しながらの介護でした。当時は、私の子どもが生まれたばかりだったこともあり、家族総出でしたね。私もシステムエンジニアの仕事に転職したばかりでなかなか休みも取れない状況でしたが、妻が義父のそばにいられるようにいろいろと調整しました。

——そういった経験のなかでアットドウスの構想を?
中村:いえ、当時はまだ「医療現場にテクノロジーが入れば、絶対に変わるのに」というもどかしさだけでした。私自身が、ものづくりやIT業界を経験している分、悔しい思いも強かったです。実際に起業につながったのは2016年、共同創設者の平藤さんとの出会いです。コンサルタントの仕事で関わっていた自治体のアクセラレーションプログラムの支援先として、平藤さんを担当しました。
——平藤さんとはどのようなやりとりをされたんでしょうか?
中村:彼は発明家なので、メインの事業のほかにもたくさんのアイデアを持っていました。それを一つずつ聞いていくなかで、「こういう技術があれば、抗がん剤の副作用はなくせるんじゃないか」という話が出てきて、僕自身もすごく共感するところがあったので、2人で盛り上がったんですね。それが今の事業の元になったもので特許も取れたのですが、平藤さん自身はメインの事業に力を注ぎたいという話だったので、「僕が社長になるので、一緒にやりませんか?」とお伝えしたんです。
——それまでのお仕事を辞められてまで、アットドウスを立ち上げられたのはなぜなんでしょう?
中村:私はこれまで、ものづくりの業界にも、ITの業界にもいたことがあります。その後は経営の勉強をしたり、自治体の人たちとのコネクションも積み上げてきました。そういったこれまでの動きが、すべてこの技術を世に出すための準備だったんじゃないか、と思ったんですね。スティーブ・ジョブズが言う「Connecting the dots」が、自分のなかで起こったんだと思います。

技術よりも先に「人」の存在で
——2017年に起業後、六郷BASEに入居されたのは2023年です。それまでの6年間は神奈川県を拠点にされていたと伺いました。
中村:これまでのキャリアで横浜や川崎にご縁があったので、神奈川を盛り上げていきたいという気持ちがありました。自分自身がスタートアップを支援する側の人間だったこともあり、自治体側の状況が把握できていたのも大きいです。自分が支援されて事業が進むのはもちろん、それが支援する側の実績にもなるといいなと思っていました。
——それでは、なぜ大田区に?
中村:たまたま人から誘われて参加した大田区のイベントで、安久工機の(田中)宙さんが「ベンチャーフレンドリープロジェクト」のことを講演されていて、「こういう人と一緒に仕事がしたいな」と思ったんですね。当時、「atDose Core」の基礎的な技術は固まっていたので、これから具体的に医療機器に仕立てていく段階だったこともあり、その製造をぜひ安久工機でと思いました。

——大田区は町工場が多く、「ものづくりの町」として惹かれてくる起業家が多い印象です。
中村:僕らも結果的にはそうなりましたが、私が一番大事にしていたのは「人」です。僕は宙さんと一緒にものづくりがしたい、と思って声をかけたように思います。
田中:開口一番に「こういうプロジェクトを待ってました」と言われてね(笑)。まだベンチャーフレンドリープロジェクトも初期の段階だったので、ちゃんと需要があると認識させてもらえた瞬間でした。後日、改めて具体的な事業内容をご紹介して、じゃあ一緒にやりましょうと。
中村:その同じイベントにちょうど六郷BASEの方がいらっしゃったこともあり、入居することにしました。ちょうど中小企業診断士の知り合いから「東京に拠点があれば支援できるのに」と言われていましたし、もともと拠点にしていた川崎から近いのも魅力でした。
——神奈川から大田区に移られて、いかがでしたか?
それぞれの地域に、それぞれの良さがありますね。大田区の印象は、「とにかくひたすら応援してくれる人たちがいる」ということ。熱意のある担当者さんが多い気がします。
——六郷BASEの印象はどうでしょうか。
行くと、みんなが熱心に事業に取り組んでいるからパワーをもらえます。経営者として一番削られるのは、時間よりもパワーだと思うんです。入居中から「会うと元気になる人たち」がいる、パワーみなぎる場所にしたいと思っていましたし、実際に僕のなかではそういう場所として存在しています。
お互いの成長を願える、“仲間”がいる場所へ
——2025年4月末からは、安久工機が立ち上げたインキュベーション施設「ヤスラボ(ヤスヒサコーキイノベーションラボラトリ)」に入居されています。
田中:もうヤスラボの構想の時点で、「アットドウスは入るよね?」みたいな感じでお話しした気がしますね(笑)。そのくらいピッタリだと思っていました。スタートアップとしてのコア技術を持ちながら、ハード部分での開発サポートが必要な企業。うちは医療機器や眼科のデバイスの開発もしたことがあったので、その経験値を活かせるのも理想的でした。

——やはり、単純に製造を外注としてお願いするのとは違いますか?
中村:やっぱり同じ建物内にいるので、いろんな話がしやすいですよね。最近も、社内だけでは手が足りない部分が出てきて、安久工機に手伝ってもらえないか……という相談をしていたところでした。
田中:初めての取り組みですけど、すごく自然な形で「やってみようか」と。ちゃんと信頼関係があるから、いい意味でアバウトに、柔軟に動けるんだと思いますね。普通であれば一回の取引関係の中で対価をもらうけれど、アットドウスとは長く付き合っているからこそ「今期はがんばったから、来期はどこかでこっちのほうをお願いしますね」みたいな貸し借りができる感じ。
——違う会社だけれど、もう仲間というか。
田中:一方で、経営者だからこそ「“お互いの成長”に寄与しよう」という条件を大切にヤスラボに入居してもらっています。対外的にはインキュベーション施設と言っていますけど、別に僕らが育ててあげる場所ではなくて。入居者同士もお互いにプラスマイナスを補完し合いながら成長してほしいし、それを願える関係性であってほしいという僕らの想いを、とても理解してもらっているなと感じています。

中村:ヤスラボは「テナントとオーナー」という関係性ではないと思っているんですよ。入居している僕ら自身も、ヤスラボを育てる役割を担っていると思うから。何か不便があったとしても「直してください」ではなく、一緒に取り組んでいけばいい。今後ヤスラボが医療機器の製造業として認可が取れるように、もともと僕らの持ち物だった3Dプリンターやクリーンルームも共有しています。それぞれが成長しながら、ヤスラボ自体も大きくしていける仲間をどんどん増やしたいですね。
田中:安久工機としては、アットドウスさんが入居してくれたおかげで医療機器の製造業としての可能性も開かれたし、実際に医療機器のスタートアップから相談もくるようになっています。こういった具体的な成果につながっているのも、嬉しいですね。
——これからの広がりがますます楽しみです!本日はありがとうございました。


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