ROKUGO MAGAZINE
六郷BASEに入居する起業家にインタビュー!
今回は、運転シミュレーションゲーム『TRAMCITY』の開発を行う Tramworks 代表の桜田大輔さんにお話を伺いました。
桜田さんは、2022年2月から六郷BASEに入居中。桜田さんが取り組んでいるのは路面電車の運転シミュレーションゲーム。ゲーム実況動画をアップするYouTuberなどの影響も相まって、鉄道ファンを中心に注目が集まるゲームジャンルです。自身も鉄道ファンであることを活かし、コアなファンも唸るようなシミュレーションゲームの開発に挑戦中です。
-ゲーム開発に至るきっかけを知りたいです。桜田さんはどんなお子さんでしたか?
小さい頃からものづくりが好きで、特定のものに限らず、身の回りのあらゆるものを真似して作ることにハマっていました。例えば、クイズ番組のシステムをノートの上に再現したり、オリジナルの『バトルえんぴつ』を作ったり。理科の授業で習った川の流れを実家の庭で再現した時は、理屈通りに砂が堆積して感動したのですが、「水がもったいない」と親に𠮟られました(笑)
中学生になる頃にはパソコンにも慣れていたので、独学でタイピングゲームを作っていましたね。その後は好きが高じて函館高専の情報工学科に進学し、プログラミングを学ぶことでより本格的なゲーム開発ができるようになりました。校内のコンテストで賞を取ったこともあります。
-鉄道のゲームを作ろうと思ったきっかけはありますか?
本格的に鉄道が好きになったのは小学生の時です。有名な某運転シミュレーションゲームに出会ったことで鉄道趣味に火が付きました。乗車するのはもちろん、鉄道の音を楽しんだり、独学で作ったホームページに撮影した鉄道写真を載せたり、どんどん趣味にのめり込んで行きました。
自分でゲームを作ろうと思ったのは、既存のゲームをやる中で、よりリアリティを追求してみたくなったからです。ゲームシステムにコントロールされるのではなく、プレイヤー自身が考えながら操作する実際の運転に近いゲームを作りたいと思うようになりました。
-鉄道の中でもなぜ「路面電車」なのでしょうか?
現在私は大田区に住んでいますが、出身は北海道函館市です。生まれ育った函館市内には「函館市電」という路面電車が走っており、小さい頃祖母と一緒に乗った記憶があります。開発中のゲームの題材として選んだのも、身近に路面電車があったことが大いに影響していると思います。
開発にあたっては、市電の音を収録してゲーム内で使用したり、現地のイベントにブース出展させてもらうなど、函館市電さんにたくさんご協力をいただいています。
函館市電からレンタル中の実物のアクセル&ブレーキ
-開発中の『TRAMCITY』について簡単にご説明お願いします。
一言でいうと「路面電車運転体験ゲーム」です。プレイヤーは路面電車の運転士になって乗客を目的地まで運びます。プレイヤーは、運転する車両の性能を理解し、安全に、正確に、時刻通りに運転しなければなりません。上手な運転ができるとスコアが加算され、新しい路線や車両を運転できるようになります。
現在開発中のものは函館市が舞台となっており、函館市電の一部区間の運転を体験できます。いずれは延伸したり、他の地域の路面電車も運転できるようにしていきたいです。
『TRAMCITY』のプレイ画面
-こだわりのポイントはありますか?
シミュレーションゲームなので、操作方法や情報を表示する位置には気を配っています。あとは路面電車の振動など、他のゲームではあまり表現されていないなと感じる部分の再現にもこだわっています。
また、私はいわゆる「音鉄」でもあるのでサウンドにもこだわっていますね。警笛やドアブザーなどは、函館市電さんにご協力いただいて実際の音を収録したものを使用しています。
「運転士の感覚とは?」を常に考えながら作っています。路面電車の運転という現実の挙動をゲーム内でも臨場感を持って体感できるよう、秘密の調整もしています…!ぜひ実際に遊んで体感していただきたいです。
-鉄道ファンへのアプローチはどうされていますか?
現在Twitterで『TRAMCITY』の情報発信をしています。少しずつですが、このゲームの存在が鉄道ファンに認知されて来たなという実感があります。7月に開催された体験フェアでゲームの体験版を展示することをTwitterで発信してみたところ、フォロワーが六郷BASEまで来てくれたのには驚きました。たくさん試遊してもらい、フィードバックもいただくことができました。鉄道ファンの目線からも、ゲーム開発の方向性が間違っていないことが確認できたので良かったです。
私もそうですが、鉄道ファンは熱い想い・こだわりをもって鉄道に接しているので、ファンの意見を良い形で吸収してゲームに反映させていきたいです。ファンと良い関係性を築いて、一緒にこのゲームを育てていきたいですね。
体験フェアで『TRAMCITY』を試遊する参加者
-今後やってみたいことはありますか?
六郷BASEのセミナールームを活用してファンイベントを開催してみたいです。集まった鉄道ファンの皆さんと一緒に『TRAMCITY』で遊ぶ「運転会」ができたら楽しそうだなと思っています。
あと、より臨場感のある運転体験を楽しめるように、路面電車のハンドルを模したゲームコントローラーを作りたいんです。まずは六郷BASEの試作室で作り始めて、ゆくゆくは大田区の町工場に製作をお願いできたらいいなと思っています。
-趣味だった鉄道ゲームの開発を事業化しようと思ったきっかけはありますか?
実は学生時代から起業にとても興味がありました。IT領域で成功する起業家への憧れもあったし、そもそも物事を自分で決めてやるということが好きだったからだと思います。そうは言っても、一度は社会に出て経験を積むべきだと思い、高専卒業後は会社員の道を選びました。その後しばらくは家族ができたこともあり、起業への想いは封印していました。
その想いが再燃したきっかけは新型コロナの流行です。もし自分が倒れてしまったら、これまで趣味で作り続けてきたゲームは日の目を見ずにお蔵入りとなってしまいます。それはとても寂しいことだなと思ったんです。もっとゲーム開発に比重を置くような生き方をしたいと思い、独立することを決めました。
-ご家族の理解はどのように得ていったのでしょうか?
常々「起業したい!」ということは言っていたし、自分で物事を決めるのが好きな私が会社勤めで息苦しさを感じているのを目にしていたこともあって、家族からの反対はありませんでした。
独立するにあたっては、自身のゲーム開発だけでなく、これまでに培った技術で開発支援事業もやることで、きちんと生計を立てられるよう準備していたのも良かったと思います。独立した当初は自身のゲーム開発と開発支援事業で1:9くらいの割合でしたが、最近は開発支援のノウハウが貯まってきたこともあり、よりゲーム開発に時間を使えるようになってきました。
-毎日忙しいと“好き”の気持ちを維持するのは大変だと思います。工夫していたことはありますか?
周囲の人やSNSで自分のやりたいこと=路面電車のゲームを作りたいということを宣言していました。宣言することで、「じゃあ作るためにはどうしよう」と考え方や日々の行動が変わっていきますし、良い意味で自分を追い込むこともできると思います。
また、宣言することで身の回りに鉄道やゲームに関する情報が集まってくるようになりました。特にSNSだと、開発中のゲームにリアクションをしてくれる鉄道ファンと繋がることができるので、それがゲーム開発のモチベーションにもなりました。
Twitterで展示情報や改良したポイントを発信中
自分が“好き”と思うことで起業したいのであれば、夜、または週末に小さく始めてみるのはどうでしょうか?小さく始めて、周囲の反応や自分自身の手応えを確かめた上で、少しずつ起業に向けた準備をしていけばいいんじゃないかと思います。その際、もう1つ事業の柱を持っておくことも大事ですね。私の場合は会社員時代のハードウェアエンジニアとしてのスキルがあったので、そのスキルを活かした開発支援事業も用意することで、本来自分がやりたい『TRAMCITY』の開発を安心して行える状態を作りました。
あとは、とにかく周りの人にやりたいことを宣言してしまうのが良いかと。宣言することで物事の視点や考え方が変わります。SNSで発信するのも有りでしょう。まずは自分の“好き”を発信することで、同じくそれが好きな人と繋がったり、情報を集めていくのが大切だと思います。
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桜田さんとお話ししていると「鉄道が好き」という気持ちが真っ直ぐ伝わってきて、鉄道ファンでなくとも応援したくなる魅力があります。その一方で、収益が見込まれる2本目の事業を用意したり、“好き”の気持ちが萎まないよう外堀を埋めておくなど、とても堅実な面も持ち合わせている方でもあります。起業家にとって大切な「情熱」と「冷静さ」をバランス良く持っているところは、これから起業したい方にとって大変参考になるのではないでしょうか?まもなくリリースされる『TRAMCITY』、楽しみです!(コミュニティマネージャー・太田)